コラム

第八十四回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、税理士の方々の 「剰余金の配当」に関する認識と私法及び税法の優劣に関する認識についての所感をお述べいただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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税理士の法律観の謎
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2017/2/15

 昨年の秋に、税理士の方々を前にして法人税に関する話をさせて頂く機会が何回かあったのですが、その内の2回の冒頭に、① 会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」は同じものか否か、② 私法と税法に優劣の関係があるか否か、という二つの質問をさせて頂きました。

 この二つの質問は、いわゆる「借用概念」について、実務に携わっている税理士の方々が実際にどのように認識しておられるのかということを確認する目的で行ったものです。

 ただし、その目的に関しては、一切、触れずに、質問を行いました。

 1回目は、100人ほどの方々が居られましたが、①に関しては「同じではない」という意見の方がほぼ全てで、②に関しては「優劣の関係がある」という意見の方が9割弱という結果となりました。

 2回目は、50人ほどの方々が居られましたが、①に関しては全員が「同じではない」という意見で、②に関しては「優劣の関係がある」という意見の方が約8割という結果となりました。

 いずれも、殆ど同じ結果になったわけですが、この結果は、私には、全く予想外でした。

1.「剰余金の配当」に関する意見と私法及び税法の優劣に関する意見の整合性について

 私は、①の「剰余金の配当」に関する意見と②の私法及び税法の優劣に関する意見には、密接な対応関係があるはずだと考えていました。つまり、①に関して会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」は同じものであるという意見を持っている人は、②に関して私法及び税法には優劣の関係があるという意見を持っており、反対に、①に関して「同じではない」という意見を持っている人は、②に関して「優劣の関係はない」という意見を持っているはずだ、と予想していました。

 しかし、この予想は、完全に外れたわけです。

 近年、「剰余金の配当」や私法及び税法の優先劣後の関係に関して、特に、特別な意見を持つことになる改正や事件などがあったわけではありませんので、上記の結果は、普段、税理士の方々が考えておられることを素直に反映したものと受け取って良いはずです。

 会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」とは同じものではないと考えながら、私法と税法には優劣の関係があると考えているという状態にある方々は、会社法と法人税法の関係をどのように描いておられるのでしょうか。

2.法律の優劣について

 私は、上記の質問をする前には、現在の憲法の下においては法律に優劣の関係がないことは自明であると考えていましたので、8割から9割もの税理士の方々が私法と税法に優劣の関係があるという意見であったことも、全く予想外でした。

 1回目の質問で、先後の関係を質問しているのか優劣の関係を質問しているのかという点が明確ではなかったために予想外の結果になったのではないかと考えて、2回目の質問の際には、わざわざ「先後の関係があるか否かではなく、優劣の関係があるか否かの質問です」と断った上で、意見を尋ねたわけですが、結果は、1回目と殆ど同じでした。

 税理士は「法律家」であるわけですから、法律に優劣があるという意見は出てくるはずがない、という先入観があったことが間違いで、私が思い至らない何かがあるはずですが、それが何かということは、これらの質問を行った時点では、全く想像もできませんでした。

3.理由を推測してみると

 どうして上記のような結果になったのかということに関しては、明確な理由が分からず、正確に言えば、謎と言う他ないわけですが、敢えて理由を推測してみると、次の二つが思い浮かびます。

(1)実務と理論が乖離していること

 ①の質問は、実務に密接な関係がある質問です。「剰余金の配当」は、税理士の実務において、日々、問題となることから、会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」とが同じものでないということは、税理士であれば、誰でも正しく認識しているのではないでしょうか。

 これに対して、会社法と法人税法に優劣があるか否かということは、税理士にとっては、日々の実務において殆ど全く問題となることがなく、理論の問題として聞き覚えたものが頭に残っているということになっているのではないでしょうか。

 要するに、実務と理論に乖離があるということです。

 これが上記の結論の理由であるとすれば、我が国の税法に関する研究や教育には大きな問題があるということなるように思われます。

 税理士試験では、上記のような質問に関する問題が出題されることはないものと思われますので、税理士試験の勉強の過程で上記の結論となるような何かが起こることはないはずですが、税理士になって初めての頃に受講する税理士登録時研修においては、上記のような質問に関する説明が行われます。

 つまり、税理士登録時研修以後の研修等を受けることにより、上記のような結果が生ずる、と考えられるわけです。

 税理士登録時研修から始まる研修等においては、上記の①と②の質問に関する答をどのように教えているのでしょうか。手元に、税理士登録時研修から始まる研修等において用いた研修資料等で思い当るものがあるようであれば、「税法に定義のない用語の概念は私法の用語の「借用概念」であって、私法が税法よりも優位にある」という主旨のことが書かれていないか、今一度、確認してみても良いかもしれません。


(2)現実には「法律家」と言い得るところにまで至り得ていない状況にある

 「税理士は法律家である」と言われてはいるわけですが、税理士の現実の仕事は、「法律家」というよりも、「記帳・申告を行う者」に近い状態にある場合が少なからずあり、それが上記のような結果となる理由の一つになっている、ということはないのでしょうか。

 もし、それが上記のような結果となる理由であるとすれば、税理士は、普段、もう少し「法律家」としての仕事をするように自ら努めることが必要である、ということになるように思われます。

 法人税関係法規の量は、平成12年度税制改正以後、急速に増えており、現在は3倍以上にまでなっているわけですが、このような近年の法人税制の大きな変化に伴い、法令の解釈の難易度も急速に高まっています。

 税理士は、将来、無くなる職業の上位に位置づけられているとも聞きますが、特に中小企業を顧客としている場合には、記帳・申告に加えて、法律家としての役割を果たすとともに質の高いコンサルティングを行い得るようになることが非常に重要になってくるように思われます。


 税理士の方々は、上記の二つの質問の結果をどのように分析されるのでしょうか。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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