コラム

第八十五回目の専門家コラムは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所のパートナー弁護士である勝間田学先生に執筆していただきました。勝間田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、ジュピターテレコム事件の最高裁決定のポイントを紹介いただくと共に、実務への影響等についてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。「剰余金の配当」に関する認識と私法及び税法の優劣に関する認識についての所感をお述べいただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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上場会社の非公開化取引における買取価格
~ジュピターテレコム事件最高裁決定のポイントと実務への影響~
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
パートナー弁護士 勝間田 学
2017/3/15

 最高裁は、平成28年7月1日、公開買付け(TOB)の後に行われた全部取得条項付種類株式の取得によるスクイズアウトに関する、株主による価格決定申立てについて、特段の事情がない限り、全部取得条項付種類株式の取得価格は、公開買付けの買付価格と同額とするのが相当であると判断した。本最高裁決定は、公開買付け→スクイズアウトという、いわゆる2段階買収の従前の実務に整合し、また、M&A当事者の予測可能性が高まるものと評価できる。本稿においては、本最高裁決定を紹介すると共に、実務への影響等について付言する。

1.事案の概要

  • A社は、平成22年6月当時、その発行する普通株式(「本件株式」)をJASDAQに上場していたが、 B社及びC社が合計してA社の議決権総数の70%以上を直接又は間接に保有していた。
  • B社及びC社は、両社でA社の株式を全部保有することを計画し、買付価格を1株につき12万3000円(「本TOB価格」)としてA社の株式及び新株予約権に対する公開買付け(「本TOB」)を行う旨、これらの全部を取得できなかったときは、全部取得条項付種類株式を用いたスクイズアウトにより本TOB価格と同額で取得する旨を公表した。
  • A社は、公表前に、本TOBに関する意思決定過程からB社及びC社と関係の深い取締役を排除し、残りの取締役3人の全員一致の決議に基づき意思決定をした。また、A社は、法務アドバイザーから助言を受け、財務アドバイザーから、本件株式の価値が1株につき12万3000円を下回る旨の記載のある株式価値算定書を受領するとともに、本TOB価格は妥当である旨の意見を得ていた。さらに、A社は、第三者委員会から、本TOB価格は妥当であると認められる上、株主等に対する情報開示の観点から特段不合理な点は認められないなどの理由により、本TOBに対する応募を株主等に対して推奨する旨の意見を表明することは相当である旨の答申を受けて、この答申のとおり本TOBに対する意見表明をした。
  • 平成25年6月28日に開催されたA社の株主総会及び種類株主総会においてスクイズアウトに必要な議案が決議された。
  • 平成25年8月2日、スクイズアウトの効力が発生した。
  • その後、株主Dは、取得価格の決定の申立てをした。
  • なお、本TOBを最初に公表してから最終的なスクイズアウトによる株式の取得日まで9か月以上の期間があり、その間に安倍政権が発足し、市場株価が急激に上昇した。

2.最高裁決定のポイント

  • 多数株主が株式会社の株式へのTOBを行い、その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし、当該株式会社が同株式の全部を取得する取引においては、多数株主又は上記株式会社(「多数株主等」)と少数株主との間に利益相反関係が存在する。
  • しかしながら、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、TOBに応募しなかった株主の保有する上記株式もTOBに係る買付価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記TOBが行われた場合には、上記TOBの買付価格は、上記取引を前提として多数株主等と少数株主との利害が適切に調整された結果が反映されたものであるというべきである。

【ポイント①】TOB公表後の株価上昇による裁判所による価格修正(補正)を否定

  • そうすると、上記買付価格は、全部取得条項付種類株式の取得日までの期間はある程度予測可能であることを踏まえて、上記取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動についても織り込んだ上で定められているということができる。
  • 上記の場合において、裁判所が、上記買付価格を上記株式の取得価格として採用せず、TOB公表後の事情を考慮した補正をするなどして改めて上記株式の取得価格を算定することは、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、本来考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定するものであり、原則として、裁判所の合理的な裁量を超えたものといわざるを得ない。

【ポイント②】公正な手続によりTOBが行われた場合には、原則としてスクイズアウトにおける買取価格についてTOB価格と同額とするのが相当

  • したがって、多数株主が株式会社の株式等のTOBを行い、その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし、当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、TOBに応募しなかった株主の保有する上記株式もTOBに係る買付価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記TOBが行われ、その後に当該株式会社が上記買付価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には、上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、裁判所は、上記株式の取得価格を上記TOBにおける買付価格と同額とするのが相当である。

3.実務への影響

 (1)平成26年会社法改正後のスクイズアウト手法にも妥当

平成26年の会社法改正により、スクイズアウトの手法に関する選択肢が拡大し、実務上、①買収者が90%以上の株式を保有する場合には株式等売渡請求の手法により、②買収者が2/3以上、90%未満の株式を保有する場合には株式併合の手法により、スクイズアウトが行われることが一般的である。
最高裁決定は、かかる改正前の手法によるスクイズアウトの事案であるが、改正後の手法によるスクイズアウトにも妥当するものと考えられる。


 (2)予測可能性が高まった

最高裁決定は、①「一般に公正と認められる手続により上記TOBが行われ」、②TOBの買付価格と同額でスクイズアウトを行う場合には、当事者の定めた価格を尊重すべきとした。
これにより、今後、二段階取引を行う当事者にとっては、一定の手続を踏めば買収価格が事後的に上昇する可能性が低くなったとみることができ、予測可能性が高まったといえる。


 (3)公正手続の内容

最高裁決定においては、当事者の定めた買付価格が尊重されるための要件として、「一般に公正と認められる手続」によることを要求している。
これは、会社法、金融商品取引法などの制定法に従っていることに限定しておらず、そこには、MBO指針や金融商品取引所の規則などに基づく措置が行われていることも含むものと考えられる。
更に、最高裁決定は、具体的に、第三者委員会や、専門家の意見の聴取などを例示しているが、これらは、実務上、利益相反回避等のために講じられてきた措置であり、最高裁決定は実務上の取扱と整合するものと考えられる。

執筆者紹介

  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所
    パートナー弁護士
    勝間田 学

略歴

平成14年弁護士登録、平成20年シカゴ大学ロースクール卒業、平成20年~平成21年英国ロンドン市のHerbert Smith 法律事務所にて執務。
専門は、M&A、企業再編、会社法・金融商品取引法。とりわけ、公開買付け(TOB)による上場会社の買収、事業承継型M&A、クロスボーダーのM&A、上場・非上場企業等の再編等について、豊富な経験を有している。

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