コラム

第八十九回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の弁護士である小林和真呂先生に執筆していただきました。小林先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、独占禁止法に関して、公正取引委員会により設けられており、2017年6月に改正されたばかりの「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」についてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。 なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
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流通取引慣行ガイドラインの改正~垂直的制限行為に対する独占禁止法の規制
西村あさひ法律事務所
アソシエイト 弁護士 小林 和真呂
2017/7/18

1.はじめに

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」といいます。)を巡る法律問題については、近時、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)によって、主にカルテルを中心に積極的な違反行為の摘発がなされていることもあって、注目が高まっているところです。

 独占禁止法は、水平的制限行為(競争事業者間の協調、いわゆる「カルテル」)に対する規制の他、垂直的制限行為に対する規制と、水平的制限行為又は垂直的制限行為を生じさせ得る企業結合に対する規制の3つに大別することができます。このうち、垂直的制限行為に対する規制については、独占禁止法の法文のみからは規制内容を把握することが容易ではないこともあって、公取委は、各種のガイドラインを設けています。中でも、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「流通取引慣行ガイドライン」といいます。)は、垂直的制限行為に対する各種の規制を幅広く解説しており、実務においても最も参照されるガイドラインの一つです。

 この流通取引慣行ガイドラインについては、制定以来25年が経過しており、その間に大きく変化した我が国における流通・取引慣行の実態と齟齬が生じているとの指摘がなされるようになっていました。そこで、昨年来、各界の有識者からなる研究会において議論がなされ、その提言を受けて、2017年6月に改正がなされました。以下では、主な改正内容について解説します。

2.構成の整理

 従来のガイドラインでは、生産財・資本財の生産者と需要者である流通業者等との取引と、消費財が消費者の手元に渡るまでの流通取引とに分けた上で、それぞれの取引について、各種の垂直的制限行為に対する独占禁止法の考え方を記載していました。もっとも、ある垂直的制限行為に対して、一方の取引については指摘がなくても、他方の取引については指摘がなされている場合、記載のない取引についても指摘が同様に当てはまり得るとされていました。そのため、結局、それぞれの取引における各種の垂直的制限行為について、いかなる適法・違法性判断基準が適用されるかが明確ではありませんした。

 そこで、改正後のガイドラインでは、2つの取引を区別することを止め、垂直的制限行為の種類ごとに、適法・違法性判断基準が示されることになりました。

 垂直的制限行為の種類としては、抱き合わせ販売(主たる商品の供給に併せて従たる商品を購入させること。従たる商品について、競争者を排除することがあり得る)が追加された一方で、既に個別のガイドラインが設けられている優越的地位の濫用や、過去に問題となった審判決例のない不当な相互取引(取引の相手方からの商品の購入と、相手方への自己の商品の販売が関連付けられている取引)等については、記載が削除されました。

2.適法・違法性判断基準の明確化

 各種の垂直的制限行為に対する適法・違法性判断基準について、概要、以下のとおり明確化がなされました。

(1) 基本的な考え方

 (種類を問わず)垂直的制限行為は、以下の要素を総合考慮して競争阻害効果と競争促進効果を衡量した上、公正な競争を阻害するおそれがある場合に違法になる、との基準が示されました。

① ブランド間競争の状況
② ブランド内競争の状況
③ 事業者の市場における地位
④ 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響
⑤ 取引先事業者の数及び市場における地位

 さらに、垂直的制限行為の種類に応じた、以上の基準の当てはめに関する、基本的な考え方が示されました。

 すなわち、再販売価格維持行為については、通常、競争阻害効果が大きく、原則として公正な競争を阻害するおそれがある行為とされました。また、非価格制限行為の中でも、安売り業者への販売禁止や価格に関する広告・表示制限等については、再販売価格維持行為と同様に、通常、競争阻害効果が大きく、原則として公正な競争を阻害するおそれがある行為とされました。

 一方で、その他の非価格制限行為については、上記①~⑤の要素に照らして、市場閉鎖効果が生じる場合や価格維持効果が生じる場合に、公正な競争を阻害するおそれがある行為となるとされました。中でも、自己の競争者との取引等の制限、厳格な地域制限及び抱き合わせ販売については、③シェア20%以下の事業者が行う場合には、原則として、公正な競争を阻害するおそれはなく、違法とはならないことが明確化されました。

(2) オンライン取引

 オンラインマーケットプレイス等のいわゆるプラットフォーム事業者(消費者と商品を提供する事業者といった2つ以上の利用者グループを組み合わせ、それぞれの利用の程度が互いに影響を与える、いわゆるプラットフォームを運営・提供する事業者)による行為についても、上記の適法・違法性判断基準に従って判断されることが明記されました。

 一方で、プラットフォーム事業者による垂直的制限行為に対する適法・違法性判断(上記3(1))に当たっての考慮事項として、ネットワーク効果を踏まえた市場における地位(上記3(1)③)等も含まれることが明記されました。ネットワーク効果(ネットワーク外部性)とは、ある財の利用者数が増えるほど、個々の利用者がその財から受ける効用が増加する現象のことをいいます。例えば、SNSの場合、一般には、利用者が増えれば増えるほどサービスの質や利便性が上がります。ネットワーク効果が働く場合には、将来的にある財が優位になると見ると、利用者が一度に大量に移行して市場シェアが急激に変動することがある一方で、技術革新の頻度・程度によるものの、一定数の利用者(市場シェア)を一旦確保してしまえば、市場シェアの変動が生じにくいとも言われています。ネットワーク効果が競争に及ぼす影響については、各国の競争当局が特に関心を有している論点の一つですが、公取委も例外ではなく、ガイドラインで示された基準がどのように運用されていくのかが注目されます。

4.最後に

 以上のように、今回の流通取引慣行ガイドラインの改正によって、垂直的制限行為に対する適法・違法性判断基準の明確化は図られましたが、現実の取引においては、問題となる行為が、ガイドラインに示された各種の垂直的制限行為のうち、どの行為に分類されるのかが明らかではない例も多く存在します。また、ガイドラインにおいて原則違法又は適法とされている場合であっても、実際にはどの程度のリスクがある行為なのかは事実関係によりますし、対応策としても、一方的な又は当事者間での是正で足りるのか、公取委への相談や申告が必要となるのかは、ビジネス上のニーズも踏まえた、ケース・バイ・ケースの検討が必要となります。そこで、垂直的制限行為について判断に迷う状況が生じた場合には、独占禁止法の実務に精通し、かつ、ビジネス上の要請にも理解のある弁護士に対して、早い段階で相談をすることが肝要です。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    アソシエイト 弁護士
    小林和真呂

略歴

2004年
東京大学法学部第一類卒業
2014年
コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2014年-2015年
ワシントンD.C.のクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所

主な著書

2017年1月
「TPP関連法の概要」NBL No.1090(2017年1月15日号)
2014年12月
「実例解説 企業不祥事対応-これだけは知っておきたい法律実務[第2版]」経団連出版(共著)
2014年8月
「インサイダー取引規制の実務[第2版]」商事法務(共著)

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