コラム

第九十九回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、法人税が分かりにくいと言われることの一因として、申告書別表四と五(一)を挙げていただき、国税職員時代の体験談を交え、ご解説いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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法人税の分かりにくさの原因の一つは別表五(一)
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2018/5/15

 法人税は、他の税と比べて、難しいという印象を持たれることが多いように感じられます。私が国税の職場で執行や立法に携わっていた頃も、国税の職場ではそのように言われていましたし、税理士試験に関しても、法人税法は「難しい」とか「重い」という声を聴くことがあります。

 私自身は、所得税法や相続税法の方が、いくら考えても理解できないものがあったり、本来は納税者が容易に理解できるものでなければならないはずの消費税法の方が、法人税法よりも難しい部分があったりして、必ずしも、法人税法の方が難しいとばかりは言えないと思っていますが、法人税法が難しいことは、否定できません。

 なぜ法人税法が難しいのかということを考えてみると、いくつかの原因があるように思われますが、その原因の一つは、申告書別表四と五(一)にあると感じます。

 先日も、資産税畑を長く歩いてこられた国税OBの税理士の方が「現役時代に、交流で資産担当から法人担当に行った時、一番、分からなかったのは、別表四と五(一)だった」と言っておられました。

 この申告書別表四と五(一)は、もう少し分かり易くならないのでしょうか。

1.申告書別表四と五(一)が現在のような構造になっているのはなぜか

 国税の職場に居た頃、なぜ、申告書別表四と五(一)が現在のような構造になっているのかということを調べてみたことがあるのですが、結論を先に申し上げると、よく分かりませんでした。

 私は、昭和57年6月に、3月間の研修を終えて、成田税務署の法人税部門に着任してから、国税職員としての道を歩むこととなったのですが、成田税務署に着任して暫く経った頃、初めて目にする法人税の申告書を手に取ってめくるうちに、その中の別表四と五(一)に興味を覚えました。当時、諸先輩は、机に座って申告書を開き、別表四と五(一)の検算式によって検算を行い、合っていれば「OK!」、合っていなければ原因を探って計算を繰り返すという作業を行っておられました。私は、この検算式が合っていれば「OK!」ということになるのはなぜなのかということが不思議で、この検算式は一体何なのだろう、と興味を持ったわけです。

 この「検算式」とは、次のようなもので、別表五(一)の左欄の余白に記載されていました。

 期首現在利益積立金額合計 + 別表四留保総計 - 中間分、確定分法人税県市民税の合計額
 = 差引翌期首現在利益積立金額合計

 この検算式の右辺の「差引翌期首現在利益積立金額合計」は「中間分、確定分法人税県市民税の合計額」を減算した金額となりますので、この検算式は、左辺と右辺のいずれにもある「中間分、確定分法人税県市民税の合計額」の適否をチェックすることはできず、そのチェックすることができないものの処理の仕方のみをチェックすることができる、ということになります。

 このため、大変、優秀であった女性の上司の方に、「この検算式では税額の適否がチェックできないので、別表の四と五(一)はもう少し変えた方がよいのではないでしょうか。」と言ったところ、一言、「自分で変えたらいいんじゃない。」と言われ、返答の言葉に詰まった記憶があります。

 それ以来、別表四と五(一)は、もう少し何とかならないのかなという想いが頭の片隅に残っていたのですが、その後、18年経って、平成12年に、財務省主税局(法人税制企画室)で、法人税法の所得の金額の計算の規定の仕方と別表四の所得の金額の計算の仕方とがなぜ違うのか、また、我が国の法人税法はなぜ損益に偏り過ぎているのか(貸借を軽視し過ぎているのか)という問題意識の下に、再び別表四と五(一)に向き合うこととなりました。

 結局、調べてみても、これらの疑問に対する正確な答は分かりませんでしたが、現在、記憶に残っているのは、武田昌輔先生から教えて頂いたことです。武田先生によれば、昭和38年頃に、昭和40年改正の作業を進めておられた武田昌輔先生に、ある国税OBの大学教授から「申告書の所得金額の計算の構造が法人税法の所得の金額の計算の構造と違うのはおかしい」という指摘があり、武田昌輔先生が「主税局ではなく、国税庁が考えること」という返事をなされ、国税庁からは「昔からそうなっている」という回答があった、とのことでした。

2.平成13年の別表五(一)の一部改正

 平成13年には、資本等取引の取扱いの抜本改正と組織再編成税制の創設を行ったわけですが、これらの取扱いにおいては、利益積立金額のみではなく、資本金の額や資本積立金額に関する処理も必要となるにもかかわらず、当時の別表五(一)には、利益積立金額の処理のみしか記載することとなっていませんでした。このため、平成13年に、別表五(一)について、資本積立金額の処理も記載することができるようにする改正を行いました。これにより、別表五(一)に、貸借をネットで表示する形とはなりますが、資本金の額を加えれば、貸借の全部を確認することができるようになりました。

 これだけでは、上記1において述べた「税額の適否のチェック」というところまでは行かないわけですが、しかし、その後、申告ソフトが普及したことで、この「税額の適否のチェック」という作業は、パソコンの中で自動的に行い得るようになっていますので、この問題は、技術の進歩により、事実上、解消された、と言ってよい状態になっています(注)。

(注) 上記1において述べた検算式について、税理士の方々から、「職員は、検算が合わなければメッセージが出るので、修正入力はするが、検算の意味を理解していない」という声を聞くことがあります。この検算式も、技術の進歩により、パソコンの中で自動的に行い得るようになっていることから、上記の「税額の適否のチェック」と同じ事情にはあるものの、この検算式には、処理の仕方が正しいのか否かという結果を確かめるという技術的な役割だけでなく、法人税法における損益と貸借の関係を正しく理解させるという重要な役割があることを忘れてはなりません。

3.今後できること

 今後、別表四と五(一)に関して何ができるのかということを考えてみると、次のようなものが思い浮かびます。

 まず、最初に思い浮かぶのは、別表五(一)について、別表四と合わせて、会計処理と税務調整を分けて書くようにした方がよい、ということです。

 別表四は、冒頭の「当期利益又は当期欠損の額」と表示された1欄に会計上の当期純利益の額又は当期純損失の額を記載し、その額について税務調整を加えるという、非常に分かり易い構造となっています。これに対し、別表五(一)は、会計上の純資産の部の金額の中から「利益準備金」等の額を取り出して記載することとなっており、「利益準備金」と「 積立金」と表示された欄が一番上にあり、「繰越損益金(損は赤)」と表示された欄は中央よりもやや下の段にあって、その間には、会計上の金額や税務調整を加えたさまざまな金額を記載する欄が設けられています。別表五(一)は、会計上の純資産の部の中の税法上で「利益積立金額」とされるものに対応する金額と税務調整によって利益積立金額の増減とされる金額を混在させて書く構造とされているわけです。別表五(一)がこのような構造となっていることが、企業会計上の貸借と法人税法上の貸借の関係を分かりにくくし、法人税法における「利益積立金額」の正しい理解を妨げているように思われます。

 このような弊害を無くすためには、別表四と同様に、会計処理上の純資産の部の金額の合計額を別表五(一)ⅠとⅡの冒頭の欄に2分して記載し、それらの額について、税制上、必要となる調整を下欄で行う、という構造にした方がよいように思われます。

 次に思い浮かぶのが、別表五(一)にも、別表四と同じように、「留保」と「社外流出等」(注1)という欄を設けるとともに、「社内流入等」という欄を設ける方がよい、ということです。

(注1) 別表四では「社外流出」となっていますが、この欄には、法人の外に流出したものだけではなく、税制上で所得の金額について単に加算したり減算したりするだけというもの(受取配当等の益金不算入額など)も記載することとなります。つまり、別表四においても、「社外流出」ではないものも「社外流出」欄に書かなければならないこととなっていることが、法人税の分かりにくさの原因の一つとなっており、別表四の「社外流出」は、本来は、「社外流出等」と記載するのが適切である、ということです。

 そのような欄を設ければ、配当、会計上は純資産となるが税法上は負債となるというようなもの、適格合併によって増加する利益積立金額や資本金等の額、適格分割によって減少する利益積立金額や資本金等の額など、所得の金額の増減を伴わずに利益積立金額や資本金等の額を増加させたり減少させたりするものを迷わず簡単に記載することができるようになります。貸借にもさまざまな「社外流出等」と「社内流入等」とが存在しますから、別表五(一)にも、所得の金額の増減によるものではない「社外流出等」と「社内流入等」を記載する欄があるのが本来の正しいあり方ということになります(注2)。

(注2) 厳密に言えば、別表四にも「社内流入等」という欄が必要です。

 平成18年度改正前は、別表五(一)には「当期利益金処分等による増減(減は赤)」という縦の欄が設けられていました。この欄は、会社法において「利益処分」という概念が無くなったということを理由に、削除され、現在は存在していません。「社外流出等」と「社内流入等」として書くべきものの一部は、かつては「当期利益金処分等による増減(減は赤)」の欄に書かれていました。

 確かに、会社法において「利益処分」という概念が無くなったことから、我が国の会社に関しては「利益金処分」というものに関する記載は行われないこととなったのは事実ですが、所得の金額の増減によるものではないが「利益金処分」によるものでもないというものによって利益積立金額や資本金等の額を増加させたり減少させたりしなければならないということが無くなるわけではなく、特に、平成13年度改正において資本等取引税制の抜本改正と組織再編成税制の創設が行われて以後は、所得の金額の増減や利益処分とは関係のない利益積立金額や資本金等の額の増減を記載する欄の必要性が高まったことも、間違いありません。

 別表五(一)も、会社法の別表ではなく、法人税法の別表であるわけですから、改正を行う場合には、法人税法における利益積立金額と資本金等の額について、どのようなものが必要であり、どのようなものが必要でないのか、ということをよく考える必要があります。

 また、別表五(一)の「当期の増減」の欄は、②欄が「減」で③欄が「増」となっていますが、この順番も、適切とは言えませんので、逆にした方がよいと考えます。

 利益積立金額を定義している法人税法施行令9条を見れば分かるとおり、増加金額が先で減少金額が後になっています。法人税法は、利益積立金額は、基本的には、毎期、増加するものと捉えています。法人税法は、各期の所得の金額に対して課税を行うものですから、利益積立金額をこのように捉えるのは、当然のことです。つまり、別表五(一)の「当期の増減」の欄は、本来は、「増」が先で「減」が後になるのが適当である、ということです。

 さらに言えば、別表五(一)の「未納法人税等」の欄も、適当とは言い難いものとなっていますので、もう少し工夫した方がよいように思われます。

 別表五(一)は、利益積立金額の明細書であって、租税公課の明細書ではありませんので、未納法人税等の発生を「増」の欄に記載するのは、本来は、適当ではありません。未納法人税等の記載欄には「△」が付されていますので、結果は、「減」の欄に書く場合と同じになるわけですが、法人税法施行令9条においては、法人税等の額は、利益積立金額を減少させるものとされており、利益積立金額を増加させるものの減少金額とされているわけではありません。租税公課の明細書であれば、法人税等の額の発生は「増」ということになりますが、利益積立金額の明細書においては、本来は、発生した法人税等の額は「減」とするべきです。

参考: 法人税等は、寄附金、交際費、事業税などと同様に、社外流出となるものですから、社内留保となるものと同様に別表五(一)に記載することにはそもそも疑問があるという問題もありますが、この問題について話をするということになると話が長くなってしまいますので、問題の指摘に留めることとします。

 長年、当たり前のようにやってきたことでも、よく考えてみるとなぜそのようにしなければならないのかということが分からない、というものが税の世界には少なくないように思われます。

 今後、別表四と五(一)において、法人税法における所得の金額と利益積立金額及び資本金等の額の捉え方とそれらの計算過程とが理論的に正しくかつ明確になるような改正が行われれば、法人税法は、現在よりも、もう少し分かり易くなるのではないでしょうか。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)
「現代税制の現状と課題 -組織再編成税制編-」新日本法規出版

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