コラム

第101回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のパートナーである石﨑泰哲先生に執筆していただきました。石﨑先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、7月9日に施行された産業競争強化法の改正により特に注目を集めている、会社法の特例措置に関する改正部分と平成30年度改正税制の内容について解説をして頂いております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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2018年7月9日施行の改正産業競争力強化法とM&A実務への影響
西村あさひ法律事務所
パートナー 弁護士 石﨑 泰哲
2018/7/17

1.はじめに

 産業競争力強化法(以下「強化法」という。)の改正(以下「本改正」という。)が本年7月9日に施行された。その内容は多岐に渡るが、M&Aに携わる実務家の間で特に注目を集めているのは、会社法の特例措置に関する改正部分(大きく以下の3つ)と、これに関連して適用される平成30年度改正税制の内容である。

① 自社株対価M&Aの対象拡大
② スクイーズアウト手続等の円滑化
③ 事業切出し(スピンオフ)の円滑化

 これらの改正の正確な理解には、会社法や税法における原則的ルールや、改正前の強化法の内容等についての知識も必要となり、制度利用者にとって、どのような場合に制度利用の可能性があるかが実感しにくい面もあると思われる。本稿では、改正後の制度の実務的な利用可能性にスポットを当てつつ、本改正の解説を試みたい。

2.自社株対価M&Aの対象拡充

 日本では、自社株を対価とするM&Aは、株式交換等の組織再編行為により行われるのが一般的である。これらは会社法上の組織法的な行為であり、会社同士の合意に基づき実行され、基本的には完全統合(株式交換を例にとれば完全親子会社化)を実現するものであり、また、日本の会社同士でしか認められない。

 これに対して、買収者が、対象会社の個別株主との合意に基づき、自社株を対価として、対象会社株式を取得する取引も認められてしかるべきである。この方法による場合は、株式の一部買付けという形で部分買収が可能となるし、海外企業を買収する際にも利用可能である。しかしながら、日本の実務においては、このような取引は殆ど行われてこなかった。その原因として、自社株を対価とするにあたり、①会社法上の現物出資規制の対象となり、検査役調査や取締役の価額填補責任の適用があることや、②取得時の市場価格によっては有利発行規制が適用され、買収者側で株主総会の特別決議が必要となるといった難点が指摘されていたところである。

 本改正前の強化法においては、事業再編計画の認定を受けることで、公開買付けによる株式取得については上記規制の適用が除外されていたが、本改正により、相対取引の場合にも適用除外が受けられることとなった。さらに、平成30年度改正税制の下で、(通常の事業再編計画よりも要件が比較的厳格な)特別事業再編計画の認定を受けた取引に関しては、売主となる対象会社の株主レベルの課税繰延べが実現され、自社株対価M&Aの利用可能性が大きく開かれることとなった。

 そこで、自社株対価M&Aの対象拡充に関しては、まずは以下の2点を押さえておくべきであろう。

  • ① 自社株対価M&Aを阻害していた会社法上の規制の適用除外が、公開買付け以外の取引にも認められるようになった。
  • ② 一定の要件を満たす場合には、対象会社の株主レベルの課税繰延べが実現された。

3.スクイーズアウト手続の柔軟化等

 会社法上、90%以上の議決権を保有している親会社を相手方とする組織再編等(合併、株式交換、事業譲渡等)については、子会社側の株主総会決議を不要とする制度が存在する(会社法468条1項、784条1項、796条1項)。本改正前の強化法において、事業再編計画の認定を受けることを要件として、このような略式組織再編の議決権要件を3分の2に緩和する措置が採用されていた。

 本改正では、複数の事業者が共同で事業再編計画等の認定を受けた場合、かかる複数の認定事業者のうち1社が対象会社を子会社等としているときは、これら複数の認定事業者(完全子会社を含む。)の議決権を「合算」して、3分の2要件を判断してよいものとされた(強化法30条)。

 さらに本改正では、略式組織再編の要件緩和に倣う形で、少数株主のスクイーズアウト手続に利用される株式売渡請求(会社法179条)についても、事業再編計画等の認定を条件として、会社法上90%以上である議決権要件を3分の2に緩和することとされた。3分の2の議決権の判定における複数の認定事業者の合算についても可能とされており、複数の認定事業者がいる場合には、売渡請求権行使者以外の認定事業者を売渡請求の取得対象から除外することも可能である。

 会社法の下では、3分の2以上90%未満の議決権を保有している場合には、株式併合により少数株主の持株を端数とすることで、スクイーズアウトを実行することができた。株式併合については、対象会社側の株主総会特別決議が必要であること、その比率設定により株主として残る当事者にも一定の端数が生じる可能性があり、当該端数部分について譲渡益/譲渡所得課税がなされるという難点があったが、強化法により売渡請求制度を利用できればこれらの問題が解消可能である。また、これまでのスクイーズアウト手続では、例えば1位株主と3位株主を残すことは困難であったが、改正後の強化法の下では、共同して計画認定を受けることで、1位株主と3位株主を残すといった柔軟なアレンジも可能となる。スクイーズアウト手続の柔軟化等に関して押さえるべきポイントは、以下のとおりとなろう。

  • ① 改正後の強化法を利用することで、略式組織再編や売渡請求によるスクイーズアウトの議決権要件を3分の2に緩和することが可能であり、事業再編計画等の認定を複数事業者が取得することで、議決権の合算も可能となった。
  • ② 複数事業者が認定を受けることにより、売渡請求について1位株主と3位株主を残すスクイーズアウトの実行等、柔軟な制度利用が可能となった。

4.スピンオフの円滑化

 スピンオフは、自社内の特定の事業部門又は子会社を切り出し独立させることであり、経営の独立、資本の独立等による企業価値の向上が期待できるとして、平成29年度税制改正により一定の課税繰延措置が導入された。かかる改正においては、(i)特定の事業部門の独立の場合を想定して、新設分割と現物配当を行う取引、(ii)子会社の独立の場合を想定して、子会社株式の現物配当について、一定の要件と満たす場合に課税繰延べが認められた。

 平成30年度税制改正では、このスピンオフ税制を拡充するために、(i)に関して、新設分割のみならず吸収分割による場合も対象とされた。また、スピンオフの準備段階において会社分割等の実施する場合、会社分割等の時点で将来株式の現物分配を行うことが見込まれているときは、完全支配関係の継続要件について、「現物分配の直前までの関係」により判定することとされた。これにより、例えば許認可取得のために予めSPCを設立して、SPCに対して事業を吸収分割させる場合や、スピンオフの準備のために一旦会社分割を行い、その後現物分配を行うような場合も課税繰延べの対象となり得ることなり、制度利用の柔軟性が高まったことになる。

 また、会社法上は現物配当については株主総会の特別決議が必要となるのが原則であるが、改正強化法の下では、事業再編計画等に従ったスピンオフに用いられる株式の現物分配について、金銭による剰余金の配当と同様の意思決定手続によって行うことが可能となった。

 すなわち、(i)会社法459条1項に基づき、剰余金の配当を取締役会決議で行うことを可能とする定款規定がある会社は、取締役会決議で現物分配が可能であり、(ii)そのような定款規定を有しない会社も、株主総会の「普通決議」をもって実施することが可能となる。もっとも、かかる会社法特例の適用を受けるには、現物配当後に遅滞なく上場予定であること等が要件となる点には留意が必要である。

 このようなスピンオフの円滑化に関しては、以下の点を押さえるべきと考えられる。

  • ① スピンオフの準備のための会社分割(吸収分割を含む)について課税繰延べがなされることとなった。
  • ② 新株式を上場予定であれば、スピンオフのための現物配当について、剰余金配当と同様の手続で実行が可能となった。

 強化法の手続が追加されることについて面倒な印象を受けるかもしれないが、実務的な負担は限定的であり、上記のとおり、改正後の強化法に基づく特例措置等の利用は手続的負担を補ってあまりある効果があると考えられる。今後の積極的な利用が期待されるところである。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー 弁護士
    石﨑泰哲(いしざき・やすのり)

略歴

2005年、京都大学法学部卒業。2006年、第一東京弁護士会登録。2014年、南カリフォルニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2014~2015年、ニューヨークのシャーマン・アンド・スターリング法律事務所へ出向。2015年、ニューヨークのNomura Holding America Inc.へ出向。国内外の企業買収、組織再編、ジョイントベンチャー・事業提携等へのアドバイスの提供に加え、コーポレートガバナンス、株主アクティビズム対応等のコーポレート分野全般を手掛ける。

主な著書

2017年5月
「BEPSの実務Ⅰ」商事法務(共著)
2012年9月
「金商法大系Ⅰ-公開買付け(2)」商事法務(共著)
2011年5月
「金商法大系Ⅰ-公開買付け(1)」商事法務(共著)
2010年3月
「金融商品取引法セミナー 公開買付け・大量保有報告編」有斐閣(共著)
2010年1月
「会社法・金商法 実務質疑応答」商事法務(共著)
       

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