コラム

第104回目の専門家コラムは、Okada Law Firm(西村あさひ法律事務所)の弁護士である岡田早織先生に執筆していただきました。岡田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、香港の法制度について取りまとめていただき、また香港におけるM&Aでよく用いられる手法について解説して頂いております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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香港におけるM&A取引
Okada Law Firm
(西村あさひ法律事務所の香港プラクティスにおける連絡先事務所)
弁護士 岡田 早織
2018/10/15

1.はじめに

 香港は、一国二制度のもと、中国とは異なる法体系を有し、安定した法治主義が実施されている。香港は従来より中国へのゲートウェイとして重要な役割を果たしてきており、また、東アジアのファイナンシャル・センターとしての役割も大きい。本稿では、香港の法制度を概観し、香港におけるM&Aにおいてよく用いられる手法についてご紹介する。

2.香港の法制度

 香港は、一国二制度のもと、中国とは異なる法体系を有している。香港の法制度は、判例法(コモン・ロー)制度であり、成文法に加え、香港の裁判所の過去の判決が先例として非常に重視される。また、香港以外のコモン・ロー制度国(特にイングランドとウェールズ)の判例も参考にされる。また、香港の法制度においては、判例(コモン・ロー)のみならず成文法も重要な要素である。香港の裁判所は、香港司法機構により行政府と立法府から独立して運営されており、三審制を取っている。裁判所は、最高裁判所(終審法院/Court of Final Appeal)、高等裁判所(高等法院/High Court)、地方裁判所(区域法院/District Court。その一部として家庭裁判所(家事法廷/Family Court)がある。)、少額裁判所(小額錢債審裁処/Small Claims Tribunal)、治安判事裁判所(裁判法院/Magistrates’ Courts)などから成る。

 香港には、外貨管理規制はなく、また、放送事業分野への外資参入規制を除き、外資の参入は原則として規制されていない。

3.香港におけるM&Aの手法

 香港においてM&Aを行う際の主な方法としては、(1)株式譲渡の方法、(2)新株発行・割当による方法、(3)事業譲渡による方法、(4)合併、(5)スキーム・オブ・アレンジメントの利用による方法が考えられる。

4.株式譲渡

(1) 手続き
 閉鎖会社を対象会社とする株式譲渡取引の場合、通常、デュー・ディリジェンスを行い、株式譲渡契約を締結した上で、クロージングを行う。株式譲渡の実行段階では、印紙税条例(Stamp Duty Ordinance)に基づく印紙税納付手続が必要となる点に留意が必要である。

(2) 株式譲渡の実行段階
 香港の閉鎖会社の発行株式の譲渡取引におけるクロージングでは、通常、クロージング直後に、譲渡取引にかかる印紙税(Stamp duty)の納付手続を行い、発行会社に旧株券を提出した上で、新株券の発行及び株主名簿(Register of Members)の更新が行われる。株主名簿(Register of Members)の更新により、株式譲渡の効力発生を会社及び第三者に対抗することができる。
 印紙税納付との関係では、株式譲渡契約の原本証明付写し(certified copy)の他、instrument of transfer及びcontract notes(sold note及びbought noteから成る。)や、当局が具体的な印紙税額を決定する際に参照するための発行会社の計算書類を当局に提出することが求められる。印紙税納付手続をスムーズに行うため、旧株券、締結済のinstrument of transfer及びcontract notesの売主サイドからの提出が、株式譲渡契約のクロージングの前提条件とされることが多い。
 印紙税の納付時期は、株式譲渡が香港において実行された場合には、実行から2日以内、香港外において実行された場合には、実行から30日以内に行うこととされており、かかる期限を徒過した場合には、その期間に応じた罰金が発生する可能性があるため、留意が必要である。

(3) 上場会社株式の取引
 香港証券取引所に上場されている株式は、会社条例(Companies Ordinance)や証券及び先物条例(Securities and Futures Ordinance)に加え、公開買付規則(The Hong Kong Code on Takeovers and Mergers)や上場規則の規制に服する。以下の場合には、公開買付けによる株式取得が強制される。

(a) 単独でまたは共同行為者と共に対象会社の議決権の30%以上を取得する場合。

(b) 既に単独でまたは共同行為者と共に対象会社の議決権の30%以上50%以下を保有している場合には、12か月の間に、保有する対象会社の議決権の2%超が増加する場合。

5.事業譲渡

 事業譲渡は、対象となる事業を構成する資産を譲り受けることにより、実質的に当該事業を承継する方法である。事業譲渡による場合、株式譲渡の場合とは異なり、個別の資産等について移転の手続を行う必要があるものの、譲渡対象となる資産等を個別に選別できる点に利点がある。

 事業譲渡に際しては、事業譲渡条例(Transfer of Businesses (Protection of Creditors) Ordinance)により、事業譲受人が事業譲渡人による当該事業の運営に関連する債務を負担する責任が生じる場合がある。また、事業譲渡に伴い、当該事業に従事する役職員は、事業譲渡人を解雇されることとなるところ、事業譲渡における解雇に際しては、雇用条例(Employment Ordinance)において、通常の解雇時とは異なる取扱いを認める規定が置かれている。

6.合併

 合併(amalgamation)は、2014年3月施行の新会社条例により新設された制度である。合併により、2以上の会社の資産及び負債の包括承継を行うことができ、被合併会社の株主は、合併会社の株式の割当を受ける。2014年3月施行の新会社条例の施行前は、合併を行うには裁判所が関与するスキーム・オブ・アレンジメントを利用するしか方法がなかったが、新会社条例により新設された合併制度により、効率的な合併が可能となった。

 新会社条例の下での合併制度は、同一グループ内における、完全親会社と完全子会社または兄弟会社同士(いずれも香港法人)の合併を対象としている。手続きは、主として、合併当事会社における株主総会の特別決議(special resolution。出席株主の議決権の75%以上の賛成が必要となる。)、取締役によるソルベンシー・ステイトメント(solvency statement)の発行、債権者への通知及び公告である。株主及び債権者は、裁判所に対して、合併への異議申立を行うことが可能である。

7.スキーム・オブ・アレンジメント

 スキーム・オブ・アレンジメントは、裁判所の認可のもとで、会社と株主のアレンジメントを実行する手続きである。上場会社のM&Aにおいて、非公開化を行う際にスキーム・オブ・アレンジメントを利用する場合が多い。一般的には、対象会社の一定の株式(通常は、ビッダー以外の者が保有する株式)が対価の支払いを条件に失効するというスキームが採用されることが多い。公開買付規則(The Hong Kong Code on Takeovers and Mergers)は、スキーム・オブ・アレンジメントを行う場合には株主総会にて当該スキーム・オブ・アレンジメントを行おうとする株主(その協力者を含む)以外の株主(「非利害関係株主」という。)が保有する株式の75%以上に相当する株主が当該スキーム・オブ・アレンジメントを承認すること、及び当該非利害関係株主が保有する株式の価値の10%以上に相当する株主の反対がないことが必要となると定めている。

8.独占禁止法

 香港では、日本の独占禁止法に相当する競争条例(Competition Ordinance)が、2015年12月14日から実質的に施行されている。2018年10月現在、香港において、企業結合規制の適用があるのは、電信事業条例(Telecommunication Ordinance)に基づく許認可の保有者が直接または間接的に関与する合併のみである。

執筆者紹介

  • Okada Law Firm
    (西村あさひ法律事務所の香港プラクティスにおける連絡先事務所)
    弁護士 岡田 早織

略歴

1999年
東京大学法学部第一類卒業
2000年-2015年
西村あさひ法律事務所
2006年
コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2006年-2007年
アトランタのオルストン・アンド・バード法律事務所
2008年
上海交通大学国際教育学院(長期語学研修課程)修了
2010年-2013年
西村あさひ法律事務所 北京事務所 首席代表
2013年-2015年
香港のメイヤー・ブラウンJSM法律事務所 出向
2015年-
Okada Law Firm

主な著書

2017年8月
「ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕」商事法務(共著)
2017年6月
「アジア進出・撤退の労務-各国の労働法制を踏まえて」中央経済社(共著)
2016年8月
「アジアにおけるシンジケート・ローンの契約実務と担保法制」金融財政事情研究会(共著)等
       

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