コラム

第126回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の弁護士である松村英寿先生に執筆していただきました。松村先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが加速する中、注目を集めている押印の法的意義と電子契約サービスに関する解釈について、ご解説頂いております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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押印の法的意義と電子契約サービスに関する解釈の明確化
西村あさひ法律事務所
弁護士 松村 英寿
2020/10/15

 DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが加速してきている一方で、コロナ渦でリモートワークが推進される中においても書類に押印するためだけに出社するという事態が生じており、近時、関係省庁により押印の法的意義の再確認と電子契約サービスに関する解釈の明確化がなされたことから、以下概説する。

1. 押印の法的意義について

 2020年6月19日、内閣府、法務省、経済産業省が連名で公表した「押印についてのQ&A」(以下「押印Q&A」という)では、私法上、契約は当事者の意思表示が合致することにより成立するものであり、特段の定めがある場合を除き、書面の作成及びその書面への押印がなくても契約の効力に影響は生じないことを明確にする一方で、契約の成立が後日争いになった場合に、押印があることによって、一定の要件を満たせば立証の負担が軽減される場合があることを指摘している。

 すなわち、民事裁判において契約の成立を主張する際に、契約書等の文書を証拠として提出する場合には、その成立が真正であること(本人の意思に基づいて作成されたこと)を証明しなければならないところ(民事訴訟法228条1項)、文書の成立の真正については、私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定するとされ(同条4項)、さらに、判例上、印影(ハンコを押した際の朱肉の跡)と本人の印章(ハンコ)が一致することが立証されれば、その印影は本人の意思に基づき押印されたことが事実上推定されるとしている。したがって、本人の印影⇒(事実上の推定)⇒本人の意思に基づく押印⇒(228条4項の法律上の推定)⇒成立の真正という、いわゆる「二段の推定」により、文書が本人の意思に基づいて作成されたことが推定されることになる。

 もっとも、押印Q&Aでは、二段の推定はあくまで「推定」であり、①ハンコの盗用や無断使用等によって他人がそのハンコを利用した可能性がある等の相手方からの反証により、推定は破られ得ることや、②押印に用いられたハンコが、登録されている実印であれば、印鑑証明書により立証することは(押印と同時に入手していれば)容易であるものの、認印等の登録されていないものである場合には、本人のハンコにより押印されたかどうかを立証することは事実上困難が生じ得ること、③最近の3Dプリンター等の技術の進歩によりハンコの模倣がより容易になっていることを指摘している。

 さらに、文書が本人の意思に基づいて作成されたことと(形式的証拠力)、その内容が信用できるかどうか(実質的証拠力)は別の問題であり、契約書の成立の真正が証明されれば、契約の成立やその内容は認められやすいものの、請求書や納品書等の文書の成立の真正が証明されても、その文書が示す事実の基礎となる法律行為の存在や内容(例えば、請求書の請求額の基礎となった売買契約の成立や内容)については、それらの文書から直接に認められるわけではないという点も指摘されている。

 以上のような点を考慮し、押印Q&Aでは、テレワーク推進の観点からは、不要な押印を省略したり、押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられるとして、(a)取引先とのメール等の記録の保存、(b)本人確認情報の記録の保存、(c)電子署名や電子認証サービスの活用を挙げている。

2. 電子契約サービスについて

 電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」という)は、電磁的記録に記録された情報について、本人による「電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る)」が行われているときは、真正に成立したものと推定するとして(電子署名法3条)、前述の押印に関する民事訴訟法228条4項と同様の推定規定を設けている。なお、「電磁的記録」とは、コンピュータ等で処理されるデータ、つまり電子文書一般のことである。

 上記の推定規定が適用されるためには、前提として、「電子署名」がなされる必要がある。この「電子署名」とは、電磁的記録に記録される情報について行われる措置であって、以下の①及び②のいずれも満たすものをいう(同法2条1項)。

① 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること(本人性)
② 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認できるものであること(非改ざん性)

 上記の推定規定の適用には、これに加えて、電子署名を行うために必要な「符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」という要件(同法3条。いわゆる「固有性の要件」)も満たす必要がある。

 このような電子署名は、大きく分けて、当事者が電子署名を行う「当事者署名型」と、クラウド上でサービスを提供する事業者が立会人となって署名を行う「事業者署名型」があるところ、当事者署名型については、従前から、電子署名法上の要件を満たすことで、2条1項の「電子署名」に該当するとともに、3条の推定効も認められると考えられていたが、当事者自らが電子認証局に電子証明書の発行を依頼する必要があるとともに、契約締結の場合には両当事者がそれぞれ煩雑な手続をしなければならないこと等から、あまり利用されてこなかった。これに対して、事業者署名型は、当事者にとっては手続が簡便になるものの、電子署名を行うのは電子契約サービスを提供する事業者となる。そのため、電子署名の要件である上記①の本人性との関係で、そもそも電子署名法にいう2条1項の「電子署名」には該当しないのではないかという疑義が払拭できず、普及が進んでいなかった。

 この点に関して、総務省、法務省、経済産業省は、2020年7月17日に「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」を公表し、電子契約サービスの提供事業者が行う場合であっても、当該事業者の意思が介在することなく、利用者の意思のみに基づき機械的に暗号化されたものであれば、当該利用者が電子署名を行ったと評価することができることを明確にした。

 さらに、同年9月4日にも3省の連名で電子署名法3条に関するQ&Aを公表し、上述の固有性の要件に関して、(a)利用者と事業者との間で行われるプロセスと(b)事業者内部で行われるプロセスがあるところ、いわゆる2要素認証による認証(例えば、登録メールアドレスとパスワードによる認証に加え、スマートフォンへのSMS送信や手元にあるトークンの利用等により取得したワンタイム・パスワードにより認証するもの)を受ける仕組みが備わっている場合には、(a)の固有性を満たしていると考えられるとし、また、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み(例えば、システム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること)等により(b)の固有性の要件も満たすことができるとして、事業者署名型の電子契約サービスにおいてもその他の要件を満たすことで、3条の推定効が認められることが明確になった。

 これにより、電子契約サービスの普及が進むことが期待されているが、事業者によってサービス内容は様々であることから、3条の推定効が認められるサービスかどうかを確認した上で検討することも1つのポイントとなるであろう。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    弁護士
    松村 英寿

略歴

2000年
慶應義塾大学法学部政治学科卒業
2015年
カリフォルニア大学デービス校ロースクール卒業(LL.M.)
2016年
南カリフォルニア大学ロースクール卒業(LL.M., Graduate Certificates in Business Law and Entertainment Law)

主な著書

2019年
『データ取引の契約実務 - 書式と解説』商事法務(共著)
2019年
『データの法律と契約』商事法務(共著)
2018年
『AIの法律と論点』商事法務(共著)
2013年
『知的財産権法概<第5版>』弘文堂(共著)
2011年
『会社法実務解説』有斐閣(共著)

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