コラム

第三十三回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、法人税法における用語の「概念」と「金額」について、取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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法人税法における用語の「概念」と「金額」
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2012/8/15

 先般、ある民事訴訟において、「脱税」とは「違法に税の納付を免れること」であって「租税回避」はこれに当たらない、という判決が出されました。要するに、「脱税」は「違法」であるが「租税回避」は「違法」ではない、というものです。
「脱税」も「租税回避」も税法に違反したものである点で何ら変わりはないわけですが、この判決を下した裁判官の方々は、税法を「法」とは思っていないようです。
 このような裁判官の方々が裁判官の中で多数派であるとは思われませんが、法律家である裁判官でさえこのような状態ですから、一般の方々の理解は押して知るべしというところかもしれません。

 確かに、税法は、他の法とは異なり、「法律」というよりも「計算規則」と受け止められているように感ずることがあります。
「金額」の「計算」を行うことは、税法の宿命であり、税法が「計算規則」という性格のものとなることは避けられないわけですが、税法から「理論」がなくなってしまうと、税法は、かつての専制君主の下での恣意的なカネ集めの手段に堕してしまい、国民の信認を失ってしまうこととなりかねません。
 税法においては、他の法以上に、「理論」が重要であり、「理論」の充実が税法を「法」として認知してもらう最も重要な鍵となるように思われます。

 このように、税法においては「理論」の充実が重要ということになると思われますが、それとは裏腹に、現実の税法においては、「理論」の重要性が非常に軽視されているように見受けられます。
 法人税法を例にとると、「概念」と「金額」を区別していないところに、この「理論」の軽視が最も端的に現れていると考えます。
この「概念」と「金額」を区別していないという問題は、法人税法の全般にわたって存在していますが、具体例としては、「所得」と「所得の金額」、「資本金等」と「資本金等の額」、「利益積立金」と「利益積立金額」などを挙げることができます。

1.「所得」と「所得の金額」

 法人税法においては、基本的には、「所得の金額」や「当該事業年度の所得に対する法人税の額」などは「所得」「金額」などに分けることができない一つの用語として用いることとされています。
 このため、現行の法人税法に関しては、立法の観点からすると、基本的には、「所得」とは何かということを定義する必要はなく、「所得の金額」や「当該事業年度の所得に対する法人税の額」などがどのような金額であるのかということを明らかにすれば済む状態となっています。

 しかし、外国法人課税に関する部分や外国税額控除に関する部分においては、やや事情が異なっています。
例えば、外国法人の納税義務に関して定めた法人税法第3編の最初の規定である138条(国内源泉所得)においては、「収益」を「国内源泉所得」という用語で示し、同じく第3編の規定である142条(国内源泉所得に係る所得の金額の計算)においては「当該国内源泉所得に係る所得について」という文言が用いられています。
 また、外国税額控除について定めた法人税法69条1項(外国税額の控除)においては、「当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるもの」「政令で定める取引に基因して生じた所得に対して課される外国法人税の額」という文言が用いられています。
 ここでは、外国税額控除制度における法人税法施行令142条3項(国外所得金額の意義)の規定を取り上げてみることとします。

  • 3 第1項に規定する当該事業年度の国外所得金額〔下線および斜体は引用者。以下、同じ。〕とは、当該事業年度において生じた法第138条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(以下この条において「国内源泉所得」という。)以外の所得(以下この条において「国外源泉所得」という。)に係る所得のみについて各事業年度の所得に対する法人税を課するものとした場合に課税標準となるべき当該事業年度の所得の金額(外国法人税が課されない国外源泉所得がある場合には、当該金額から当該外国法人税が課されない国外源泉所得に係る所得の金額を控除した金額)に相当する金額をいう。ただし、当該金額が当該事業年度の所得金額の100分の90に相当する金額を超える場合には、当該100分の90に相当する金額とする。


 上記の条文中の下線を付し斜体にした部分は、「所得」に関係する用語で、一つのまとまった言葉として用いられているものです。
 これらの用語に関しては、まず、その「所得」という用語を含む言葉が、「所得の金額」を計算する場合の「収益」を指すものであるのか、あるいは、「所得の金額」の中に含まれている「所得」を指すものであるのかということを確認する必要があります。

 上記の条文中では、この前者に該当するものは、「国内源泉所得」「以外の所得」「国外源泉所得」(2箇所)となり、この後者に該当するものは、「国外所得金額」「に係る所得」「各事業年度の所得に対する法人税」「所得の金額」(2箇所)「当該事業年度の所得金額」(法令142(1)において定義済)となります。
 そもそも、「収益」を指すものに「所得」という用語を用いること自体に疑問なしとしないところではありましょうが、一応、その点は措くとしても、上記の条文中の「以外の所得」と「に係る所得」に関しては、同じく「所得」という用語を単独で用いながら、異なる内容のものとして用いており、これについては流石に疑問がある、と言わざるを得ません。

 所得課税の法としての法人税法においては、「所得」という用語は非常に大事な用語であるわけですが、「所得」という用語をこのような形で用いるということになれば、「所得」という用語の定義をしようとしても、的確に定義することはできないはずです。

2.「資本金等」と「資本金等の額」

 「資本金等の額」は、平成18年度改正において、従来の「資本積立金額」の増加減少事由を政令に定めることとしたことを契機に、従来の「資本等の金額」と「資本積立金額」とを一つにまとめたものです。
 この「資本金等の額」に関しては、法人税法2条16号において、次のように定義されています。

  • 十六 資本金等の額 法人(各連結事業年度の連結所得に対する法人税を課される連結事業年度の連結法人(以下この条において「連結申告法人」という。)を除く。)が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいう。


 法人税法においては、「資本金等」に関する定義は設けられていませんが、上記の「資本金等の額」の定義中には、「資本金等」を「株主等から出資を受けたもの」と捉えていることをうかがわせる文言が見受けられます。
 このような点からすれば、上記1の「所得」とは異なり、「資本金等」に関しては、その概念の一定の明確化が図られていると言ってもよい状態となっています。
「資本金等」を「株主等から出資を受けたもの」と捉えることに関しては、「資本金等」の概念を的確かつ端的に示しており、高く評価してよいと考えます。

 しかしながら、皮肉なことに、この平成18年度改正から、「資本金等の額」が必ずしも「株主等から出資を受けた金額」を正しく示さないものとなってしまい、22年度改正においては、その傾向が更に顕著となって、現在に至っています。
 この点に関しては、平成22年度改正を中心に、『詳解 グループ法人税制』(法令出版)において詳細に述べていますので、参照して下さい。

 この「資本金等の額」の例は、その「概念」を的確に定義したとしても、その「金額」の計算がその「概念」に合致したものとなっていなければ、「言行不一致」として非難されるもののごとく、意味がない、ということを示しています。

3.「利益積立金」と「利益積立金額」

 「利益積立金額」に関しても、上記2の従来の「資本金等の額」と同様に、平成18年度改正において、その増加減少事由を政令に定めることとしたことを契機に、法人税法2条18号において、次のように定義されています。

  • 十八 利益積立金額 法人(連結申告法人を除く。)の所得の金額(第81条の18第1項(連結法人税の個別帰属額の計算)に規定する個別所得金額を含む。)で留保している金額として政令で定める金額をいう。


 この「利益積立金額」に関しても、上記の「資本金等の額」と同様に、その定義中に、「利益積立金」を「所得となったもので留保しているもの」と捉えていることをうかがわせる文言が見受けられます。
このように、「利益積立金」を「所得となったもので留保しているもの」と捉えることに関しては、「利益積立金」の概念を的確かつ端的に示すものとして、高く評価してよいと考えます。

 しかしながら、この「利益積立金額」に関しても、残念ながら、上記の「資本金等の額」と全く同じような事情にあります。

 上記の「資本金等の額」と「利益積立金額」に関しては、平成18年度改正以後の増加減少事由の改正内容の全面的な見直しを行い、それぞれの概念に合致しないものについて、早急に改正を行って、それぞれの金額が適切なものとなるようにする必要がある、と考えます。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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